チェイス すた!

眼鏡もしくはカメラもしくは携帯もしくは・・何かを取りに戻る、そしてこの散歩嫌いの駄犬を二階に置いてくる時間も無く、とにかくこの爺様がどこに戻るか確認しておこうと判断した私は追跡を始めた。学校の角を曲がり体育館の端ぐらいに行った所で私と愚犬が角にたどり着いた。そう、「犬がもうこれ以上行かない・・」と、土嚢袋のように抵抗するのをギリモリに進んだタイムロスがあったのだ。だが、この辺りで「目標」が振り返ってみるようになった。赤い帽子(もしかしてチャイニーズ帽?)紫のシャツ・白いコッパン・・。犯罪を犯す服装では無いぞ・・と思いながらもチェイスすた・。リチャードキンブルを追うジェラート警部さながら・。不思議に駄犬が歩調を合わせてくるようになった。何か普通でない事を察知した感もある・・が定かではない。
目標が一度、「もしかして見たのか見たのか、おまえ・」と立ち止まり私の瞳を探った。
「あ~見たよ、ジジイ、悪いんだけど、俺、ゆるせね~」と足早に近づいていったら逃げた。


狼狽した爺様は迷走した挙句、どうやら自宅棟の前まで帰ってきたが部屋番まで認識されるのを嫌って1Fのバルコニーで固着した。
対峙しながら思った。
75歳~82歳ぐらいと思えるこの「がんちょ爺様」は、この度、生まれて初めて犯した軽犯罪を私に目撃されたのだろうか??イヤイヤいたる所、爺様周辺の紛失事件をすり抜けて乗り越えてきたのだろうか?そんな事を考えたりして、たまたま、予期せぬタイミングでズバリ・がんちょシーンを見せられた私は深い憂慮の海に沈んだ。盗癖・・。60年の人生で思えば数人・・「盗癖」を持った人と関わった。彼等は他人の物をそくっと奪う事を悪い事と思っていない、うまくいったと思っている。つまり成功した、テストで80点以上取った、ぐらいに思うのだ。そしてバレル・捕まる・弁済させられる・・この事をテストで20点ぐらいしか当たらなかった。つまり、うまく行動できなかった事が敗因と思うのだ。
とりあえず居住地を確認したので戻る事にした。後は学校がどうするか判断する事だと思った。新聞が無い、新聞が無い・・と騒ぐ前に、この事は生徒にとって安全な事か・・と考えるのでは無いかと思った。又、新聞の置き場所にも工夫が必要だろう・郵便受けみたいなボックスに入れているのでなく門の隙間に挟み込んでいたようにも思った。そしてこのご時世「安全監視カメラ作動中」とか書いてあるだけでも様々な抑止効果があるのでは無いか?等々と考えながら歩いた。


愛犬と目があった。もう帰るのか?と言っているようだった。追跡中、リンチンチンやラッシーの如くピタッと寄り添って歩く事は普段、「そっちには行きたくありません。」「今、匂いカギ中ですので動きません。」「喉が渇いたのでもう動けません。」とアンカー化するマロン君とは別の探査犬ともいえる行動だった。
月曜日に学校に報告する事にした。